疲れ
ランニングーブームも要注意
近年、ランニングを楽しむ女性が増えています。なかには、フルマラソンに挑戦する方も少なくありません。ランニングをつづけていると、血中の鉄分が流出して貧血になりやすく、特に女性はその傾向が強いので、鉄分やタンパク質、ビタミンCやカルシウムなどを多めにとるなど、食生活の工夫が必要なことは、よく指摘されています。
特に四〇歳からのランニングやマラソンを楽しむにあたっては、漢方の「気」の面での注意も必要です。
ある四〇代前半の女性患者さんは、疲れやすく、のぼせやすい。月経も数ヵ月こない、との訴えで来院しました。聞くと、一年ほど前から「健康にいいから」と友達からすすめられ、ランニングをはじめたとのこと。学生時代はスポーツのサークルに入っていた経験があるものの、ここ二〇年近くは本格的な運動はしていませんでした。
ムダに頑張らないコツ
このように「気」にまつわる不調の改善には、漢方薬だけでなく、「気の持ちよう」も大きな役割を果たします。
四〇歳を過ぎて、家事や仕事が以前と同じようなペースでできないことは、ある意味、当然のことです。四〇歳を過ぎたら、あらゆることに全力投球しつづけることは無理なのです。
一方、この年代は、経験に基づいて「物事に優先順位をつける」ことができます。優先順位の高いものから力を使い、低いものについては力を抜くことで、加齢によるエネルギーの減少をカバーすることが可能になるのです。
休養はカラダのメンテナンス
"過去の自分”にこだわるのではなく、「いまの自分」と向き合うことは、自分に起こっている変化を受け入れることにもなります。カラダに変化が生じ、そのために余分な「気」を使っている年代であることを受け入れることができれば、不調に対してムダに頑張ることもなくなり、かえって老化の速度や度合いを遅らせることにつながります。
逆に、この「受け入れ」ができないと、実際のカラダの状態と、「こんなはずではない」という気持ちとのギャップが生じ、そのギャップが大きくなればなるほど、気持ちが落ち込みやすくなります。
患者さんでも、このギャップによってうつ気味になっている場合には、前述のエネルギー・ボールーセオリーのお話をします。すると、患者さんはカラダの変化に順応するために「余分に使っている気」の存在を知ることで、「とても気が楽になりました」と、暗いトンネルを抜けたように明るい顔色になり、不調からの回復も早くなることが多いのです。
体力がある人ほど「急に老け込む」危険性
とかくこれまで体力があった(ボールがもともと大きい)人は、「エネルギー・ボールーセオリー」になかなか気づきにくいものです。
体力(エネルギー=気)がある分、無理ができてしまうので、エネルギー・レベルが下かっていても、「たまたま疲れているだけ」とやり過どしがちですが、そうした行動は、結果的にどんどんエネルギー・レベルを落としていってしまうことになります。
マイナス・レベルになるともはや無埋かきかない状況になり、そこでやっとエネルギーが枯渇していることに気づく、というような事態になりかねません。「いままでできていたのに、なぜできないのか?」「疲れが全然抜けない」と、心身の以前との違いの大きさに驚き、かえって不安になってしまうこともあるでしょう。
使える「気」が少なくなる エネルギー・ボールーセオリー
特に四〇歳を過ぎると、前述のように、カラダの調整のためにエネルギーを余分に使わなくてはいけません。
たとえば、ある四〇代の女性の「気」の最大量が100だとしましよう。このエネルギーのうち二〇を、カラダのバランスをとるために使わなくてはいけないと仮定した場合、残りの八〇で日々の生活をいとなまなくてはいけません。
それなのに、二〇のエネルギーを無意識のうちに使っている年代であることを忘れて、自分の使えるエネルギーがI〇〇あると思って行動してしまうと、エネルギー・レベルはマイナスになってしまいます。
また、ボールの大きさを三〇代のころと同じだと思っている場合についても、いくら二〇を差し引いて行動したとしても、ボール自体(エネルギー総量)が小さくなっているので、エネルギー・レベルは同じようにマイナスになります。
なかには、この両方を無視した行動、つまり、四〇歳以上になったにもかかわらず、三〇代のエネルギー・ボールの大きさの範囲内で最大限の行動をしてしまう人もいます。
こうした場合はおしなべて、以前は簡単にできていた行動であっても疲れを感じてしまうなど、これまでとの「違い」を自覚することになります。いわゆる「いままでと同じように暮らしているのに、疲れやすい」などといった感覚です。
「気」の総量が小さくなる エネルギー・ボールーセオリー
とはいえ、四〇年間で出会ったことのない「いまの自分」と向き合うのも、なかなか容易なことではありません。患者さんのなかにも「頑張り屋さん」やもともと体力がある人がいて、「いまの自分」と向き合うことがなかなか難しい場合は、エネルギー(気)の総量をボールにたとえてお話しするようにしています。
まず、エネルギー・ボールの大きさは、生まれたときから個人差があります。大きなボールで生まれてきた人は、子どものころから体力があり、若いころは疲れ知らずで、活発に動き回ってきたことでしょう。
一方で、ボールが小さかった人は、幼少のころから病気がちで、華奢で、疲れやすいといった特微かあります。
そして、どんな大きさのボールで生まれてきたとしても、年齢とともにボールは小さくなっていきます。大きく生まれてきた人のボールは小さく、小さいボールはより小さくなっていくのです。
女性の場合、「七年ごとの変化」にあてはめると、二八歳をピークに、どんなボールも小さくなっていきます。もちろん、日々のケア次第で、ボールが
小さくなる度合い(速度や縮小割合など)が違ってきたり、不養生を改めることでボールが以前(若いころ)より大きくなることはありますが、全体の流れとして「小さくなる」という方向性は変わりません。
頑張り屋さんのおちいりやすいワナ
みなさんは、こんな経験がありませんか?
「これまでの休日のお買い物は、新宿と渋谷のいくつかのショップを回ったほかに銀座まで足を延ばしていたのに、最近は、新宿のショップ数軒が精一杯」
「バーゲンのときは、前日深夜まで仕事をしていても、早朝から繰り出していたけど、いまは、起きるのがつらく、そもそもバーゲン会場まで行く気力がない」
「楽しかった近所の奥さんたちとのおしやべりも、時聞か長いと疲れるようになった」
四〇歳からは余分に「気」を使う
四〇歳からの女性に共通していえるのは、それまでの人生のどんな時期と比べても、「いままで以上にエネルギーを使わざるをえない状態にある」ということです。専業主婦でも働いている女性でも、子どもの有無にかかわりなく、皆おしなべて、エネルギー、つまり「気」を余分に使っています。それまでとまったく同じ生活をしていても、です。
それは一つに、前章で閉経に関連して説明した女性ホルモンが大きく影響しています。
この年代は、女性ホルモン(エストロゲンとプロゲステロン)の量が少なくなってくることに加え、卵巣や子宮の機能もおとろえてきます。その結果、脳の指令とカラダの反応とがうまくかみ合わず、カラダは混乱状態にあります。
その混乱の過程で、月経周期の乱れが生じるほか、いろいろな不調を覚えることになるのです。
ただ、カラダにはもともと、第一章でも触れたように、体内環境を一定の状態に保つ仕組み「ホメオスタシス」が備わっています。ホメオスタシスは、「神経系」「内分泌系」「免疫系」という、カラダを動かしている三つの仕組みから成り立っています。
たとえば、強いストレスがかかると、ホメオスタシスの一つ、神経系の働きがくるいだします。具体的には、自律神経という、自分の意志に関係なく、呼吸や心拍、循環、消化など、生命を維持するために必要な働きをもつ神経がダメージを受け、心臓がドキドキしたり、イライラや不眠といった不調を訴えるようになります。
「気のせい」ですまさない
「気」という言葉は、みなさんの身近で案外と使われています。たとえば、「病は気から」という慣用句。これについては、江戸時代の儒学者、貝原益軒が『養生訓』のなかで、「病とは、気を病むことである」と説明しています。まさに気を病むと「病気」になります。その「気」について、この章では説明します。
漢方でいう「気」とは、生命活動をいとなむエネルギーのことです。元気、気力、気合の「気」です。気持ち、気分といったココロの状態も含んでいます。
四〇歳からの日常の不調は、更年期障害のような日常生活を送ることさえも難しい場合をのぞき、多くは病気とみなされません。とはいえ、この年代は、病気でなくても、「気」が体内でうまくめぐらなくなったり、「気」自体の量が少なくなったりすることで生じる不調が多くみられます。
「気」に限らず、第二章での「血」や、第三章で説明する「水」も含め、「病気ではないけれども、健康でもない」という状態に悩まされることが多いのが、四〇歳以上です。こうした状態を漢方では「未病」といいます。
しかし、「病気ではないから、放っておこう」といった”不調の先送り”は危険です。なぜならば、四〇代でのケア次第で、五〇代からさらに体調が悪くなってしまうか、逆に不調が楽になっていくか―へとたどる道が分かれていくからです。
未病を克服するにあたっては、ちょっと気になる程度の不調であっても、「気のせいということはない」と意識してほしいのです。このことは、どの年代にもいえることですが、特に四〇歳からは、つねに忘れずにいてください。